Say Hello to Mark

親父と母上はその二人の人生で初めて自分の子供に名前を授けるという仕事に取りかかった時ラジオを聞いていた。Tokyo FMを聴きながらああでもない、こうでもない。なにしろミーハーな両親だ。母上のお腹の中で必死に幹細胞を各組織に分裂させようと躍起になっていたおれは人の心配をする余裕などなかっただろうけど、それでもヒヤヒヤせずにはいられなかったのではないかな。おい、時代劇の主人公なんかから名前を取らないでくれ!抗議のキックをものともせず母上は名字との相性や呼びやすさ、画数を吟味するフリをして隙を見てご執心なイギリスロックバンドのドラマーの名前を漢字に直そうとした。親父はと言うと断固として我が家系に伝わる男は漢字一文字の名前という伝統を断ち切ろうと息巻いていて…そんな時、ラジオからとあるJ-popが流れてきた―甘く伸びやかな男性ボーカル、山下達郎。その瞬間おれの名前は決定した。ああ…そうだね。つくづく思う。Thank you, DJ! あの時ロック・ユーを流されていたら目出度くおれの名前はロジャーになるところだった。


おれが小学生の時だ。授業で、自分の名前に込められた意味をお父さんお母さんに聞いてみましょうという企画があった。おれは山下達郎の大ファンだった両親に、夕飯の席で聞いた「なんで達郎って付けたと?」「達郎の達は、友達の達やろ。友達がいっぱい出来ますように、ってことよ」山積みの山下達郎のレコードを背に二人は声を揃えた。おれは「ふーん」といささか疑問を残すような感想を漏らした。先生は「そうねー、そのおかげで友達いっぱいやもんねー」と言ってくれた。先生、ロジャーだったら何て言ってくれたんだろう。


そのおかげで(!)、人の縁には本当に恵まれている。今では素直に、そう思う。22年ほど生きてきたけど持ち前の人見知りしないポジティブな性格のおかげで誰とでも仲良くなった。沢山の友人から様々なことを学び、励まされ、下らないジョークを言い合う。自信をもって言えるけど、おれは一人じゃ生きていけないし、全てうまくやるなんて無理だ。でも、誰かと一緒に居れば、それがおれの力になる、そう本気で思ってる。何をこっ恥ずかしいことを、って?おれは真面目さ。珍しくね。


だからおれは自分で自分をなんとかしようなんて意志はない。おれ一人で出来ることなんてたかが知れてるだろう?だから、もっと沢山の人と、もっと色々な人と知り合って、友達になって、そして沢山のものを貰いたい。性別も年齢も国籍も人種も問わないさ。おれにとって友達はすなわちおれの一部なんだ。でも、そうだね、もちろん貰うばかりではよくないね…。そうやって沢山の人からもらったものを自分のものにして、それをまた他の人にお裾分け。どうだい?ギブアンドテイクだ。持っていないものを交換しあうのは商業の原点だね。