ペプシしそ EVOLUTION


Twitterで「ペプシしそ」が話題になっていた。まだなってるかもしれないが、とにかくそのエキセントリックな清涼飲料水(!)は新しいもの好きのTwitterユーザの心をがっちり掴むことに成功したらしい。ところが彼らの声をおれが拾った限りのもので見ると「やっぱり不味い」「いや、意外とイケる」などなど、ハナから美味しいものなど期待していないかのような意見が殆どだった。なにしろあの悪名高き「ペプシアイスキューカンバー」の続編のような位置づけなのだからそれも仕方あるまい。いや、そもそもそんな前例などなくても、コークに紫蘇を入れるなどというブッ飛んだ発想をすんなり受け入れられる方が常人の感覚としては信じられない。紫蘇だぞ。始祖を入れた方がまだ「そうだね、温故知新だね」といって多くの人々に余計な躊躇いなく受け入れられたかもしれない。始祖鳥?それも良いアイディアだ。だがARC’TERYXファンは怒るかもしれない。


ところで、それだけ話題になっていながら、バカなお祭りには参加せずにいられない生粋の博多っ子であるおれは未だに「ペプしそ」を飲んでいない。ペプチドを連想してげんなりするからではない。オリゴペプチド配列に悩まされている日々を打開するためにむしろ「ペプシペプチド」なんて商品が出たら大人買いしてやる。しかしペプチドではなくペプしそである。おれは飲みたくないね。


皆さんは「喫茶マウンテン」というレストランをご存知だろうか。知らなければGoogle先生に聞いてみるといい。「名古屋が世界に誇る」なんていう仰々しい枕詞と共にそれを紹介するページがあなたの前に現れるだろう。とんでもない料理、所謂ゲテモノ料理を出す店として有名だそうで、知人の多くも「登山へ往く」などと言ってその店に勢い勇んで出向いて行ったのだが、ハイキング中の彼らはつぶやきを投稿するサービスに「不味い」「もう無理」と言い残しそのまま消息を断っている。先のウェブサイトによればなんでも既に120万を超える人が遭難しているらしい。魔界である。たまに「意外とイケる」などと仰っている方も見受けられるが、ともかくハンパな山ではない。散っていった勇者達のブラックボックスによると、そこではスパゲッティにバナナやイチゴを合わせてみたり、名古屋だけにスパゲッティやピラフに味噌を合わせてみたりとやりたい放題だ。しかしそこへ向かう人々は皆、到底美味しいとは思えないようなものを食わされると知っていながら向かうのだ。どうして?彼らは言う。「そこに山があるからさ」。オーケー。まあ止めはしないが提案だ。杖の代わりにMy箸を持って行くっていうのはどうだい。ECOだろ。


ペプシが挑む謎の領域、喫茶マウンテンの断崖絶壁。おれはこういう類いの食事や飲み物が死ぬほど嫌いだ。何故か?それは農学学士のはしくれとして、そして日本人として食事を残すな粗末にするな、食べ物で遊ぶなと教え込まれて来たからであり、何より一人の料理をする男として許せないからだ。「そう目くじらを立てるなよ」と言われるかもしれない。それに彼らだって決してこの世界的に危機が叫ばれる食料問題に中指を立ててやろうとしてやっている訳でもあるまい。ビジネスだからね。儲かることが第一だ。だから、問題なのは、そういったゲテモノが次から次へと出てくる状況が続いている、つまりはその”最後の晩餐”に何らかの価値を見出しお金を出している連中が、彼らがそのイカれたビジネスを続けようと意欲をかき立てられるのに十分なほどいるということだ。


人間の祖先は哺乳類の中では弱い存在だった。身体も大きくはなく、他の獣に比べれば身体能力も劣っていた。だが、彼らは道具を使い、言葉を操り、文明を発展させることにより今や地球上で最強の生物となった。それまで生物は環境による選択を受け、弱いものは淘汰され滅んでいった。だがその自然淘汰を人間は知恵とか勇気とか愛とか、あとiPhoneとかで打ち破ったのだ。最早人間の地球上での地位を脅かすものは居ない。そう、唯一、同じ人間を除いては。


始祖鳥は既に絶滅し、上野動物園に行ってもヴェロキラプトルはいない。それはダーウィン師匠の仰ったように、劣ったものが淘汰され、優れたものが生き残ることで生物は様々な形へと姿を変えてきたからだ。 だが今や人間に選択圧をかけるのは人間しかいない。未来へと遺伝子を残すものは人間によって選ばれる。そしてそれは自らの遺伝子だけでなく、人間が生み出したものについても同様だ。某人のfavorite wordを借りればミームを、人間の手によって生み出されたものを、残すか残さないか。外的な環境も要因としてはあるだろうが、その殆どは人間の判断に委ねられる。自然選択をはね除け、自らが決定権を持つ。つまり、我々は進化の鍵を手中にしているわけだ。 身体能力で劣っている人間でも生き残ることが出来る。それは人間が淘汰されることを良しとしなかったからだ。ペプシしそが不味くてもほとんど売れずに消えることはない。それは人間が淘汰されることを良しとしなかったからだ。だがおれはペプしそは淘汰されるべきだと思う。ペプしそを買うこと、ペプしそを残すという選択が、おれは進化に繋がるとは思わない。だから買わない。そんなクレイジーな飲み物を作っているヒマがあったら地球上の全女子がおれに惚れる性涼飲料水の開発に早く取りかかって欲しい。出来るまで時間がかかってもおれは一向に構わない…宮崎あおいとキャサリーン・ゼタ・ジョーンズのどちらにするかおれはまだ決めていないからね。どちらも人妻だって?いいじゃないか、好きなんだから。