縁日LOVERS


からん、ころん。リズミカルな音が響き、普段履き慣れた靴とは違う感触が足から全身に伝わって、それがなんだか楽しくて。からん、ころん。歩きにくい浴衣は、普段早足で歩いていると気がつかなかったこの町の風景を見せてくれて、それがなんだか新鮮で。少しの緊張と胸の高鳴り。ゆっくりと息を吸い込む。都会と違って緑の多いこの町の空気は、心に溜まった色々なものを綺麗にしてくれるようだと、ぼんやりとそんなことを思った。


「もう!遅いよ!」


言葉の割には弾んだ声。現実に引き戻され、周囲の喧騒が耳に飛び込んでくる。顔を上げると、にっこりと笑った彼女が立っていた。七時に鳥居の下。腕時計はしていないから今が何時かは分からないけれど、少し遅れてしまったかもしれない。素直にごめん、と言おうともう一度顔を上げて口を開こうとして、無邪気に微笑んだまま「なに?」そう聞き返した彼女の浴衣姿に目を奪われた。日も暮れて薄暗い町の中で、そこだけほんのり明かりが灯ったようで、まるで……慌てて視線を外して、「…浴衣、似合ってるじゃん」思わず口をついて出た自分の言葉にはっとした。恐る恐る視線を戻すと、赤く頬を染めて驚いた表情が見えた。しかしすぐに、慌てたように顔を背けて彼女は、「ほら、行こ!」と露店の並ぶ参道の方へ歩き出す。大きくなった心臓の音を抑えながら、小走りで彼女に追いついて、並んで歩いた。二つ並んだ下駄の音は、さっきよりも心地よく感じた。





無理、これ以上はおれの心が汚れ過ぎてて無理。もう無理。死ぬ。
参考:http://twitter.com/iNut/status/3360954372