me, and I am you.


ドッペルゲンガーの話。


ソフトボール大会に助っ人に行ってきた。学内で毎年恒例のトーナメント大会があり、チームを作って出場するのだが人が足りない、もしよければ来てくれないかということだったので、任せてください、と胸を張って、FCバルセロナの10番を着たおれは、サッカースパイクでバッターボックスに足を踏み入れた。「メッシがバット構えてる…」という声が後ろから聞こえた。よく晴れた土曜日のことだ。


ほんのちょっとした縁で誘われたので、見知った人が全くいない。試合前、皆が思い思いにトレーニングをしたり談笑したりしているところで、場違いなまでに派手なフットボールのユニフォームを着たおれはどう振る舞ったものかと悩んでいた。そんな姿を見かねたのか、誘ってくれたチームのキャプテンが「君と同学年の子がいるんだ」とチームメイトの一人を紹介してくれた。女の子だった。「初めまして、よろしくお願いします」と彼女は頭を下げた。おれは首を傾げた。はじめまして?


彼女に会うのは初めてではなかった。それどころか、互いによく知った仲のいい友人だ。はじめまして?何言ってるんだ、随分古典的なジョークじゃないか。そんなことより、おい、何故こんなところにいるんだ。お前は神戸でボールを蹴ってるはずじゃないのか?


似ていた。いや、似ているというよりも同じだった。はっきりとした快活な声も、肩にかかる黒い髪も、少しふっくらとした可愛らしい顔も。身長が低いところも…その割にはちょっとグラマーなところも。パーツだけじゃない。雰囲気も、性格までまるで一緒だった。試合中、とっさに思わず彼女の名前を呼んでしまったくらいに、おれは彼女と彼女の区別をつけることができていなかった。不思議そうな顔をする彼女に、いや、君にとてもよく似た友達がいるんだ、と説明すると「へえ、それはちょっと会ってみたいね」とにやりと笑った。もし彼女にこの話をしたら、全く同じように笑うだろうなとおれは思った。



"世界には自分のそっくりさんが三人居る"。もし、と考えた。彼女と彼女のように、おれにもおれと外見も性格も思考回路も全く同じ、という人がどこかにいて。そして偶然にも出会ったとしたら。おれはその時何を思うだろう?その時どうするだろう?……そうだね、だいたい想像はつくよ。二人して「バッカもーん!そいつがルパンだ!」とコンビニのお姉ちゃんを困らせたりするのさ。シンクロ率、400%を超えています!とかってね。なんだ、楽しそうじゃないか。じゃ、あなたならどうする?


おれのように仲良くなろうとする人もいるだろうし、関わりたくもないと思う人もいるだろう。罵り合ったり、喧嘩を始めたりする人もあるかもしれない。人それぞれなのだろうけれど、でもそれは、自分のことをどう思っているか、もっと言えば、自分のことが好きか嫌いか、という点に尽きるんじゃないかな。自分のこと、好きですか。おれは好きだね。日頃、冗談で自分のことを男前だなんて言っているのとは違うよ。自分がこうありたいとする姿、こうしたいという生き方、そういったものをぶれずに実現させている、おれはそういう人が好きで、そしておれは現実にそうやってる。少なくとも、そうなるように毎日トライしてる。だから例えばおれがおれと全く同じ人を見たら、きっと好感を持つと思う。そして"おれ"も、おれのことを気に入ってくれるだろう。


でも世の中には自分のことを嫌う人もいることもおれは知っている。「他の人は自分にはないこんないいところがある、自分には出来ないこんなことができる」「自分はやってもできない、やる力もない」そんな風に自分を呪い続ける人は、自分にそっくりな人を拒絶するだろう。でもそれはとても悲しいことだー誰よりも自分のことを理解してくれる人なのに。


そうじゃない、そうすべきじゃない。自分とそっくりな人に出会ったら笑顔で握手し、一緒に酒を飲むくらいはしなくちゃいけない。だってそれはとても貴重な体験だもの。60億人のうち3人しかいないのだから、そんな素敵な巡り合わせを自分から捨ててしまうのはとても勿体ない。だからみんな、もっと自分のことを好きになろう—ああ、自分で書いていてどんどん胡散臭い新興宗教のパンフレットみたいになっていくのが分かるよ—それはともかく、それはとても大切なことで、幸せな人生を送ることの必要条件だと思うんだ。自分のことを嫌っているのに、幸せそうな人なんかいるかい?いないだろう。結局のところ、自分のことを一番知っているのは自分なんだ。その自分が自分を嫌ってしまったら、一体どうしろっていうのさ。


自分とそっくりな人がいたとする。そこで自分と同じ、自分が嫌いな部分が見えたとしよう。そんな時に、それを詰ったりするのではなく、どうして悪いのか、どうすれば良くなるのかということを一緒に考えられる人にならなくちゃいけないと思うんだ。自分と同じだから答えなんて出ない?そうじゃない。一緒に考えようとするその姿勢が大事なのさ。つまり…おれが何を言いたいかはもう分かるだろ?


お、分かるかい。さすがだな。どこまでもおれと考えることは一緒だな…
赤がいい、白がいい?白?だよなー!うんうん、じゃあおれパスタ作るよ。
分かってるって、今日はボンゴレの気分だもんな。
さ、呑もうぜ。