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ジーパンに赤いニットと革ジャン、短髪にメタルフレームの眼鏡という姿でリビングに現れたおれを見て母親は開口一番「このイタリアかぶれめ」と舌を出した。弟はいつの間にかおれの着替えが入った鞄を漁り「このジャケットくれ!」と絶叫している。頼みの綱とばかりに懇願の視線を飛ばした先の愛犬Dieselはおれの靴下の臭いを嗅ぐのに夢中でこちらを向いてくれない。靴下を脱いで放り投げると、数秒の間をおいて茶色い弾丸がバスルームの扉に激突する音が聞こえた。世知辛い実家である。


まだそこらにクリスマスパーティの余韻が残る部屋の端には、おれがいない間に購入された国産のバカでかいプラズマテレビが鎮座していた。だが、そう、全くおれが思っていた通り、二日過ごしても未だに電源が入る気配はない。なかなかの大きさであることだし、これでMTVを見るかESPNを見るかFox channelを見るかするだけでこの部屋の雰囲気までがらりと変わりそうなものなのだが、このそう広くない部屋を満たしているのはBoseのスピーカーから流れるNorah Jonesである。テーブルの上に空いたワインボトルが散乱しているところまでおれが普段生活している空間とそう変わらない。「そのワイン!美味しかったとよ!安かったし!」とソファに転がった毛布の塊の中から聞こえる酔っ払いの声。こうしておれは血縁を確認するわけだ。


親父と弟はパスタだけで生きていけるように腸がfixされていないので朝食に白米が出てくるところがおれの一人暮らしの部屋と違う数少ない点ではある。それでも「これを飲まんと一日が始まらん」と言ってCHEMEXにとびきり濃くいれた珈琲が入っているところが我が家の我が家たる所以であり、朝食を食べ終わるや否や父と息子は「最近見つけたクールなアプリ」をお互いに自慢しあっている。HackathonでもないのにMacが四台も家にあるというのは正直珍しいのを通り越して気持ち悪い。ちなみにiPhoneは親父母上おれ弟で四台だ。そう、そうなんだよ。愛犬Diesel君はiPhoneを契約出来ないらしい!Softbankのお父さんはいいのに、どうして。


ちょっと変わった家族の、平和な年末。でも明日はパスタじゃなくて、蕎麦を食べに行くと思う。