Triangle

人の流れに従ってゲートを潜り、スタジアムを出る。すっかり日も沈んで暗くなった空の下、ぞろぞろと往く行列を照らす街灯の光が浮かび上がらせたのは、何かが吹っ切れたような、いくつもの苦笑いだった。みな同じユニフォームを着て、国旗を羽織ったり、フェイスペイントをしていたり、鳴り物を持ったり派手な帽子を被った人も多いけれど、それらがかえって彼らの浮かない表情を際立たせている。突然、遠くで歓声が上がった。続けざまに歌声が響き始め、打楽器の音が建物の壁に反響する。徐々に高揚していく黄色の一団とは対照的に、青いユニフォームを纏った人々は、よく彼らの母国でそうするように、行儀よく順番に並んで俯いたまま歩いていく。それでも黄色い人々のお祭り騒ぎはなかなか止む気配がない。歩きながら、ぼんやりとした目でそちらの方を見ていると、ふと近くを歩いていた人と目が合って、思わず互いに苦笑い。どちらからともなく言葉を交わし始めた。


「いやー…やっぱり強いっすね、ブラジルは」
「…まだまだ、世界の壁は越えられないですねー」


降参だ、と言わんばかりの口調でのそんな会話のやりとりに、周りの人達も笑いながら頷いている。
すると、それを聞いていた誰かが叫んだ。


「でも、よくやりましたよね!次は、四年後はきっと勝てますよ!」


その一声で、沈んでいた人々の顔が上を向き始めたのが分かった。そうだ、まだ終わったわけじゃない。四年後。次こそは、今度こそは。人の流れが、サポーターを運ぶバスの連なる駐車場へと差し掛かり、各々の方向へと分かれ始めた時、自然と皆が声を掛け合い始めた。


「じゃあまた四年後に、南アフリカで!」





4分間のロスタイムの終わりを告げる笛が鳴り、思い出したのはあの日の夜のことだった。
例えサポーターが忘れても、選手達がそれを思い出させてくれた。
ドルトムントから、ブルームフォンテーンへ。
もう一度、皆で、四年前のあの日の続きを。
頑張れ、日本代表。