Walk On


少し前にコンバースのスニーカーを買った。神戸の古着屋で買ったハイカットのオールスター、色はワインレッド。型が少し古いらしくて、細長い形をしているのが結構気に入っている。スニーカーは履き潰してナンボだと思っているから、雨の日だろうがストリートサッカーする日だろうが構わず履きまくり、既に新品だった頃の面影はない。先代もおれはそうやって四年かけてボロボロにしてしまった。でも、スニーカーってそういうものだと思う。ボロボロに汚れたスニーカーほど味が出て格好イイものだ。勲章なんて言うとちょっと大袈裟だけどさ。だけどスニーカーに限らず、靴には歩いた街の記憶が残っているようで、だから旅好きのおれは余計に靴を簡単に捨てられない。


ところでコンバースのスニーカーを履くことをおれは長いこと拒んでいた。なにしろメジャー過ぎるというか、街に出てコンバースを履いている人を見かけない日なんてない。永遠のスタンダード。だからこそ「みんなと同じなのはヤだ!」と駄々をコネがちだったおれはコンバースなんて!と思ってこれまで履いたことはなかったのだけれど、近年は厨二病も治癒してきたのか、いや、悪化したと言うべきか…それは「誰もが履いているスニーカーを街で一番格好良く履きこなしてやる」という気概に変わり、最早歩くのが困難なほどに履き潰してしまった先代の次におれはコンバースを選んだのだった。


ところで実際に履いてみて気付いたのだけれど、コンバースのスニーカーは、ハイカットだと足首までキュッと締まってないと格好良くない。そうすると、靴ひもをしっかり上まで締めないといけないことになる。これが脱ぎ履きする時に意外に面倒臭い。出かけた先で、町屋カフェでランチをしようなんてガールフレンドに提案された日には100%脱がなくてはいけない。だったら脱ぎやすいように最初から紐を緩めておいた方が…と最初は思った。だけどそれでは格好悪いのだ。紐がキュッと締まっていないとダメだ。友人からも「紐結ぶの面倒臭いよなー、余らして後ろに回したら?」とも言われたが、ダメだ。それではダメなのだ。それでは街で一番のコンバース野郎にはなれない(女子はカテゴリが違うので比較対象外)。


だから今でも、朝急いで出なければいけない時でも、待合せで人を待たせている時でも、ガールフレンドがお腹を空かせているから早くオーダーしないと機嫌が悪くなりそうな時でも、コンバースの紐をゆっくりと、しっかりと結ぶようにしている。綺麗に固く結ばないと歩いている途中に解けてしまうし、何より急いで紐を締めるとバランスが悪くなって見た目が悪くなる。これは一つの儀式みたいなものなのだ。昔、飲食店で働いていた時、サロンの紐をギュッと結ぶと自然に背筋が伸びて気持ちが仕事モードになっていたように(実のところ今でもそれは残っている)、コンバースの紐を結ぶと気持ちもキュッと引き締まる気がする。


それだけの思い入れを持って履いてるんだ。「お前スニーカーほんま似合うよなあ」と友人に声をかけられたら、そりゃあニヤリと笑ってしまうさ。