Voglio solo vivere senza prendersi cura degli altri

手袋を持って出なかったことを後悔した。かじかんだ手を摺り合せながら息を吹きかけ温めようとするその様子はまるで神様に祈っているかのようで、だけど神様は多分おれよりももっと大変な目に遭っている人たちを助けるのに忙しいだろうとも思う。サンタクロース氏が出発するのも、まだもう少し先だろう。だけどそう、これだけ寒いのだからラップランドのトナカイたちも安心してクリスマス仕事に出かけられるだろうし、もしそうならそれはとてもいいことだと思う。


「寒いねえ」唐突にそう呼びかけられて、おれの意識は東京に戻ってきた。丸の内に永久凍土はないし多少暖かくなっても構わないとは言わずに、顔をしかめてその声に応える。おれの表情をどう解釈したのか、彼女は楽しそうにステップを踏みながら「こういう空気は好きだな」と笑った。「そう?おれは恒温動物に生まれてきたことを感謝してるんだけど」「ロンドンの街を思い出すんだよね。こんな感じのしんと張り詰めた、肌を刺すような空気って」理系男子の下らない冗談は白い息と共に霧散して、文系女子の詩的な表現が石畳を叩く足音と響いた。「あー、ロンドン帰りたいな!」「そんな薄着で?」「いや、コートは買わなくちゃね…」「買えばいい」「こっちでは要らないじゃない」「今は?」「もうすぐワイン飲むからいい」「それはそうだ」


気の合う友人ってのはいいものだ。何も言わなくても好みのワインをオーダーしてくれるし、黙ってオリーブオイルにペッパーを削っても文句を言われるどころか「タイミングが完璧!」と親指を立ててくれる。